ここでは、データ収録(DAQ)システムの世界で使用される信号アンプについて説明します。
信号アンプとは何ですか?
信号アンプは 電力を使用して入力信号電圧または電流信号の振幅を増大させ、その出力端子にこの高振幅を出力する回路です。理想的な信号アンプは、元の信号を正確に複製し、より大きくして他のすべての点で同一です。実際には、「完璧な 」増幅は不可能です。なぜならどの回路も、ある点を超えると信号のすべての側面を完璧かつ比例的にスケールアップすることはできないからです。
信号アンプは、固定電話や携帯電話システム,音楽や公共放送システム,データ収録(DAQ)システム,無線周波数トランスミッタ,サーボモーターコントローラなど、数え切れないほど多くのデバイスに不可欠なコンポーネントです。
データ収集(DAQ)システムでは、小さな信号を出力するセンサからの振幅をデジタル化するために、A/Dコンバータ(ADC)に送ることができるレベルまで増加させる信号アンプが必要です。一般的なA/Dコンバータの入力アパーチャは±5Vです。したがって±5Vよりはるかに低い熱電対,シャント,ひずみゲージなどからの信号は、ADCに送られる前に大幅に増幅する必要があります。
さまざまな信号アンプモジュールが用意されているIOLITE-R8およびIOLITE-R12
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信号アンプの種類
信号アンプにはいくつかの種類があり、それぞれ異なる信号タイプを調整できます。 以下は、データ収録システムでよく見られる信号アンプです。
- 差動アンプ
- 絶縁アンプ
- 電圧アンプ: 低電圧アンプ、高電圧アンプ、DC電圧アンプ、AC電圧アンプ
- 電流アンプ
- 圧電アンプ
- チャージアンプ
- 熱電対アンプ
- ひずみゲージアンプ: ブリッジアンプ,フルブリッジアンプ,ハーフブリッジアンプ,クォータブリッジアンプ
- 抵抗アンプ
- LVDTアンプ
信号の本質的な特性を維持する
ギターアンプの目的は、エレキギターから低レベルの出力を取り出し、良い音にすることです。それは正確さとはまったく関係なく(この用途では無関係)、美くしさにのみ関係します。私たちは単純にこの信号アンプから良い音を引き出したいだけで、クラシックな真空管アンプ内の電子機器は、特定の音楽のコンテキスト内でより心地よい音になるよう、意図的に「色付け」するように設計されています。
一般的なエレキギターアンプ
しかしDAQシステムの目的は、正確で客観的な信号計測を行うことです。そのためシステムのあらゆる面で、信号の精度を維持するように設計されています。DAQシステムが信号の振幅を大きくしたときに、信号の特性や性質を歪めてしまっては意味がありません。繰り返しになりますが理想的な信号アンプは、元の信号を一切歪ませてはなりません。では、どうすればそれを実現できるのでしょうか?
現在の最高のDAQシステムで使用されている信号アンプ(別名 「シグナルコンディショナ」)の仕様をざっと見るだけで、信号のどの要素を保存することが最も重要であるかについて、非常に強力な手がかりが得られます。
最も頻繁に指定される要素は次のとおりです。
- 入力レンジ
- 帯域幅と「エイリアスフリー」帯域幅
- サンプリングレート
- ゲイン精度
- ゲインドリフト
- ゲイン直線性
- オフセット精度
- オフセットドリフト
- ダイナミックレンジ
- ノイズフロア
- 入力インピーダンス
- 最大コモンモード電圧
- 絶縁
これらの仕様をそれぞれ見て、DAQ信号アンプ内でどのように機能するかを見てみましょう。
入力レンジとは何ですか?
入力レンジは、信号に適用できる選択可能な入力ゲインです。一般的な低電圧シグナルコンディショナでは、±100mVから±50 V(またはそれ以上)までの範囲で、その間にいくつかのステップがあります。
ユーザは信号の全バイポーラ振幅に、最も適合する入力レンジを選択します。例えば、ある信号が±500mV前後の範囲にある(ただし±500mVを超えない)場合、±500mVの入力レンジ設定が理想的です。これがDAQシステムで利用できない場合、ユーザは次に高いレンジ(例えば±1V)を選択する必要があります。
信号の両端が「クリッピング」されるのを避けるために、選択した入力レンジの最大バイポーラリミットのいずれかを超えないようにすることが重要です。
信号をADCの理想的な±5Vに増幅するために、±500mVのレンジを使用する
シグナルコンディショナの役割は、これらの各レンジをADCが必要とする理想的な±5V出力に増幅することです。
したがって、±5Vの入力レンジはユニティゲインつまり入力と出力の比が1:1であることを意味しますが、±500mVの入力レンジを選択すればアンプのゲインは10:1になります。±200V のレンジを選択すると、ゲインは 1:40つまり40対1の減衰になります。レンジに関係なく、出力は理想的な±5VにスケーリングされADCに送られます。
この時点でDAQシステムの信号「増幅器(アンプ)」は、ユーザが選択した入力レンジに応じて、信号 「減衰器(エデュケータ)」としても機能する必要があることは明らかです。信号を増幅するか、減衰するか、あるいはどちらも行わない (ユニティゲイン) かに関係なく、同じようにうまく機能しなければなりません。
間違ったレンジを選択した場合はどうなるでしょうか? ユーザが大きすぎるレンジを選択した場合、信号は±5Vの出力アパーチャ内で非常に小さくなります。その結果、デジタル化したときの解像度が低下し、信号対雑音比(S/N比)が悪くなります。
大きすぎる入力レンジを選択すると解像度が失われます
大きすぎるレンジを使用することは、200フィート離れた場所に立って普通のカメラで猫の写真を撮るようなもです。出来上がった画像では、猫のピクセルは比較的少なくなります。猫がフレームいっぱいに写るまで近づくと、カメラの全解像度が猫の撮影に使われます。
入力レンジを小さくしすぎると、信号が「クリッピング」する原因になります
一方、近づきすぎると、猫の一部しか撮影できませんよね?猫の一部はフレームにまったく入りません。ユーザが信号に対して小さすぎる入力レンジを選択した場合にも同じことが起こります。信号の一部が「クリップ」され、まったく記録されません。
左: 理想的な入力レンジ 中央: 入力レンジが大きすぎる 右: 入力レンジが小さすぎる
私たちは猫を計測しているわけではありませんが、考え方はお分かりでしょう。正しい入力レンジを選択することは、可能な限り最高のS/N比と信号解像度を実現し、「クリップ」つまり過変調計測を避けるために非常に重要です。
誤った入力レンジ設定の解決策 - Dewesoft DualCoreADC®
エンジニアは長年この難問に悩まされてきました。可能な限り最高の分解能が得られるレンジを選択したいのですが、信号の中には予測不可能なものもあり、計測中に予想をはるかに超えて振幅が増大してしまうこともあります。
解決策の1つは、各信号をDAQステムの2つの異なる入力チャネルに入力することです。
- ほとんどのテストでは、1つのチャネルが最適の分解能に設定されます。
- もう一方のチャネルは、信号の振幅が劇的に増加したときのために、より広いレンジに設定されます。
これは機能しますが、非常に非効率的です。入力信号ごとに2つのチャネルを使用すると、同じ作業をするために2倍のDAQシステムが必要になります。さらに、各テスト後のデータ分析がより複雑になり、時間もかかります。
DewesoftのDualCoreADC®アンプは、各チャネルに2つのADCを搭載しています。
DEWESoftのDualCoreADC®テクノロジは、チャネルごとに2 の独立した24ビットADC を使用し、リアルタイムで自動的に切り替え、シームレスな単一チャネルを作成することでこの問題を解決します。これら2つのADCは、常に入力信号のハイゲインとローゲインを計測します。その結果センサの計測可能範囲がフルになり、信号がクリップされるのを防ぎます。
【動画】Dewesoft DualCoreADC® アンプの概要
これは動的信号に限ったことではありません。ほとんどの熱電対のような非常に遅い信号であっても、可能な限り振幅軸の分解能を最大にすることは非常に重要です。
1500℃のスパンで計測できる熱電対を想像してください。ほとんどの場合、温度は100℃程度ですが時折800℃以上に上昇することもあります。この非常に遅い信号でも、DualCoreADC®テクノロジは大きなアドバンテージがあります。ほとんどの信号に対してはゲイン1を使用し、高振幅の変動時にはゲイン2を自動的に切り替えるため、常に最適なY軸分解能が維持されます。
DualCoreADCC®により、SIRIUSは130dB以上のS/N比と160dB以上のダイナミックレンジを実現します。これは、一般的な24ビットシステムよりも20倍優れており、ノイズは20倍少なくなります。
DualCoreADCアンプ搭載 SIRIUSモジュール式8チャネル データ収録システム
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帯域幅とエイリアスなしの帯域幅とは何ですか?
「周波数応答」とも呼ばれる帯域幅は、信号アンプの性能が満足に発揮されると考えられる周波数の範囲です。これは歴史的に、信号の振幅が実際の値の-3dB以内に収まるところまで信号を再現できるという意味で認められてきました。このいわゆる「3dBポイント」は、実際の振幅の70.7%の信号として表現することもできます。
信号アンプの「3dBダウン」ポイント
SIRIUS LV (低電圧) 信号アンプを使った実際の例を見てみましょう。このモデルの定格帯域幅は70kHzです。これは、SIRIUS LV がスタンドアロンのシグナルコンディショナではなく、ADCも内蔵しているためです。実際、実際これは24ビットの分解能を持つデルタシグマADCで、アンチエイリアスフィルタを内蔵しています。
デルタシグマADCの特徴の1つは、選択したレートよりもはるかに高速にサンプリングすることです。オンボードの強力なDSPエレクトロニクスを使用して、非常に高い振幅軸分解能 (この場合は24ビット) の出力データストリームを生成します。この方式はまた、入力信号に対してサンプリングが遅すぎるために発生するエイリアシング(つまり「偽の」) 信号も防止します。
その結果この帯域幅は「エイリアスフリー」帯域幅でもあり、この範囲ではエイリアス信号が発生しないことを意味します。A/D変換も組み込まれていない信号アンプでは、エイリアスフリーの帯域幅を指定することはできません。この仕様はA/Dプロセスに関連しているためです。
SIRIUSアンチエイリアスフィルタリングと標準的な2次,4次,8次フィルタリングの比較
可能な限り最高の帯域幅とアンチエイリアシングの結果を実現するために、次のようなさまざまな技術が組み合わされています。
- アナログフィルタリング
- オーバーサンプリング
- デジタルフィルタリング
上のグラフを見ると、SIRIUSのフィルタリングを表すオレンジの線がほぼ完璧であることがわかります。
では、これはどうやって実現したのでしょうか? すべてのフィルタが位相のずれを引き起こすことはよく知られていますが、これはどのように可能になるのでしょうか?
非常にシャープなロールオフ(「ダンピング」)を実現するには、高次のフィルタが必要です。これにより、アナログではなくデジタル領域でフィルタリングすることになりますが、デジタルフィルタリングではエイリアシングを防ぐことはできません。これについては「ADコンバータとは」で詳しく説明しています。
SIRIUSアンプのシグナルチェーン
したがって、最初にアナログ領域でフィルタリングしてエイリアシングをブロックし、次にデジタル領域でフィルタリングすることで、これが可能になります。ただし最高の位相結果を得るためには、FIR(有限無限応答)フィルタを使うべきです。これはフィルタリングの中でも最も負荷の高い計算のひとつで、多くの処理能力を必要とします。
幸いなことにSIRIUS ADCサブシステム内のDSPは、1秒間に数百万回の計算が可能です。さらに、デルタシグマアーキテクチャにはオーバーサンプリングが含まれており、ナイキスト周波数を上げて信号品質を向上させています。その結果、予測可能な周波数(この場合は70kHz)で非常に急なロールオフが実現します。
HS(ハイスピード)シリーズなど、より高速なA/Dを使用し、より広帯域でエイリアスのない帯域幅を提供するSIRIUS信号アンプもあります。HSシリーズは特定のモジュールに応じて500kHz,1MHz,2MHzの帯域幅を提供します。さらにSIRIUS XHSシリーズは、高帯域モードで最大5MHzの帯域幅を提供します。
どのような場合でも、計測器とアプリケーションを一致させることが重要です。物理的(電気的および機械的)領域におけるほぼすべての計測において、SIRIUSシリーズの信号アンプが提供する帯域幅は十分です。
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サンプリングレート(サンプルレート)とは何ですか?
DAQシステムを指定する場合、ほとんどの人はサンプルレートを車の最高速度のように考えます。「このシステムはどれくらいのスピードが出せるのか?」
レースカー
もちろん、これは重要な質問ですが、システムの有効帯域幅とエイリアスなしの帯域幅も考慮する必要があるため (前のセクションを参照)、その仕様がより重要になる場合があります。
サンプルレートは、DAQシステム内のA/Dコンバータが信号アンプから入力されるアナログ データをサンプリングできる速度またはレートのことです。これは前述した帯域幅と明らかに関連しています。
SIRIUSを例にとると、これらのモジュールには2種類あります。
- SIRIUS DualCoreおよびHDシリーズ: 最大サンプルレート:200kS/s/ch
- SIRIUS HSシリーズ: 最大サンプルレート: 1 MS/s/ch
- SIRIUS XHSシリーズ: 最大サンプルレート: 15 MS/s/ch
全チャネルが同時にサンプリングされるので、1MS/s/chで8チャネルを記録する場合、1秒間に800万のサンプルがディスクに書き込まれます。1サンプルは1バイト以上であるため、「バイト」ではなく、データの1ワードを意味する「サンプル」という用語を使用するのが一般的です。
16ビットシステムでは1サンプルは2バイトですが、24ビットシステムでは4バイトです。したがって、「サンプル」という用語を使用する方が便利で混乱も少なくなります。
したがって、サンプル レートは信号アンプ自体のアナログ部分とは特に関係ありませんが、ADCシステムを内蔵したSIRIUSの場合、信号チェーンのアナログ要素とデジタル要素が緊密に統合されているため、サンプルレートは正当な懸念事項となります。前述のようにこれらのセクションは、可能な限り最高のパフォーマンスを実現するために、ひとつのシステムとして設計されています。
ゲイン精度とは何ですか?
ゲイン精度とは、信号アンプが信号を増幅する精度のことです。たとえば、1.287Vの入力信号があり、アンプにその振幅を10倍に増やすように要求した場合、アンプは 12.870Vの出力信号を返す必要があります。理想的な増幅と実際の増幅の差がゲイン誤差です。
理想的な信号アンプにはゲイン誤差はまったくありませんが、現実にはどのシステムにも何らかの誤差が存在します。
ゲイン精度は、ゲイン精度の逆数である「ゲインエラー」で表現することもできます。
この指標の一般的な略語には、フルスケールのパーセンテージを表す「% FS」や、読み取り値のパーセンテージを表す「% RD」などがあります。
ゲインエラーは通常、実際の信号読み取り値のパーセンテージとして表される大きさの測定値です。ただし、フルスケールのパーセンテージとして表されることもあり、その場合、大きく異なる可能性があります。どのように表されるのでしょうか。
端数のない例を使用して、次の 2 つの仮想システムについて考えてみましょう。それぞれの10V範囲のゲイン精度が 1% と指定されています。
仮想システムAは 読み取り時のゲインエラーを指定しますが、 仮想システムBはフルスケールでゲインエラーを指定します。この違いは何でしょうか?
これをテストするために、両方のシステムにまったく同じ10Vの信号を挿入します。信号が10Vでレンジが10Vの場合、システムAとBのゲインエラーは同じになるはずです。
しかし、信号の振幅を5Vに下げるとどうなるでしょうか?
システムAは、読み取り値に1%のゲインエラーがあるため、ゲインエラーのパーセンテージは読み取り値の振幅に追従して一定のままです。この範囲内の信号がどのようなものであっても、ゲインエラーは変化せず、常に信号読み取り値の同じパーセンテージになります。
システムBは、読み取り値に関係なく1%のゲイン エラーがあるため、信号振幅が50%減少してもレンジが10Vのままであれば、エラーは2倍になります。さらに信号を1Vに下げると、ゲインエラーは1%の10倍、つまり10%に悪化する可能性があります。
信号アンプゲインエラー
このため、ゲインが実際にどのように指定されているかを確認することが重要です。
SIRIUS LVモジュールのゲイン精度は、読み取り値の±0.05%です。つまり、信号振幅が一定の範囲内であれば、ゲイン精度 (誤差) は変わりません。
ゲインドリフトとは何ですか?
ゲインドリフトは、周囲温度の変化によって誘発されるゲインエラーであるため、より正確には「ゲイン温度ドリフト」と呼ばれます。そのため、ゲインドリフトは通常、温度変化1度あたりの百万分の一の数値(ppm)で表されます。
温度は摂氏またはSI単位K(ケルビン) で表されます。ゼロ点または基準点が大きく異なりますが、ケルビンと摂氏は同じ大きさであることに注意してください。つまり摂氏1度はケルビン単位1と同じ大きさです。
SIRIUS LV信号アンプは、この仕様の良い例です。そのゲインドリフトは次のように規定されています。
- 通常 10 ppm/K、最大 30 ppm/K
この場合、2つの仕様が提供されます。日常の動作条件下で予想される典型的なドリフトと、極端な条件下で発生する可能性のあるワーストケース (最大) ドリフトです。典型的なドリフトは1ケルビン単位あたり10ppm (基本的に「1℃あたり」と同じ) になります。
「百万分の一(ppm)」は、動作温度の変化を受けたときにゲインが変化する割合を定義しています。
ゲインドリフトの指定する別の方法は、次のとおりです。
- ±20ppm/K ±100μV/K
この場合、1℃あたりのppmドリフトに加え、1℃あたりの追加電圧(この例では100μV)を加算して、温度変化1℃あたりの最大ゲインドリフトを決定する必要があります。
もちろん、どの温度からスタートするかを知る必要があるので、メーカーは通常、問題の計測器の基準動作温度または動作温度範囲を提供します。
ゲインリニアリティとは何ですか?
リニアリティとは、アンプに入力した信号の正確なコピーである増幅信号を、アンプがどれだけ正確に出力できるかということです。もちろん完璧なアンプはありませんが、リニアアンプはこの難題に対応するために特別に設計されています。DAQシステムは正確な計測を行うことが仕事なので、シグナルコンディショナが計測する信号の性質を根本的に変えてしまうことはまずありません。
アンプは、元の信号をできるだけ完璧にコピーし、振幅だけを変えて作成する必要があります。入力波形と出力波形の一致は、わずかな歪みや「非ニアリティ」の差はあっても、同一である必要があります。
SIRIUS LVシグナルコンディショナを例にとると、このモジュールのゲインニアリティスペックは
< 0.02%です。
これは、増幅された信号のニアリティが元の波形と比較して0.02%以内しか誤っていてはいけないことを意味します。
オフセット精度とは何ですか?
増幅される信号の大きさに関係するゲイン精度とは異なり、オフセット精度は信号のベースラインの正確なY軸方向の位置決めに関係します。
±1.000Vの単純なAC正弦波の例を見てみましょう。この信号の中心線はちょうど0.000Vにあります。シグナルコンディショナがこの正弦波を±5.000Vまで増幅するように設定されていたとしても、ベースラインは0.000Vにしたいですよね?オフセット精度は、シグナルコンディショナが増幅する信号のベースラインをどれだけ維持できるかを定義します。
SIRIUS LVの場合、内蔵バランスアンプの前後両方でオフセット精度の仕様が示されています。このアンプは非常に広いレンジのため、レンジによって仕様が多少異なります。
- 最も感度の高い±100mVのレンジでは、オフセット精度は±0.1mVです。
- 最も感度の低い±200Vのレンジでは、オフセット精度は±40mVです。
つまりこれらの値は、±100mVレンジを選択した場合の±0.1mVオフセット精度のような絶対値です。これは非常に印象的な数値であり、一見すると、その下の40mVオフセット精度の仕様の方がずっと悪いように見えます。しかしそうではありません。なぜなら、その値は±200Vレンジであり、±100mVレンジの2000倍大きいからです。
オフセットドリフトとは何ですか?
前述のゲインドリフト仕様と同様に、オフセットドリフトは、周囲の動作温度の変化に基づいてこのパラメータが時間の経過とともに変化する傾向のことです。
SIRIUS LV シグナルコンディショナを例にとると、オフセットドリフトは次のように指定されます。
- 標準 0.3μV/K + レンジ 5ppm/K、最大: 2μV/k + レンジ 10 ppm/K
ここでも、実際には2つの仕様が提供されています。通常の動作環境における標準的なドリフトと、システムが極端な動作環境で使用されている場合の最大ドリフトです。
したがって、一般的な動作環境では、オフセットドリフトの仕様は次のようになります。
- 0.3µV (0.000003V) / ケルビン単位 + 選択されたレンジの5ppm (0.000005) / ケルビン単位
ダイナミックレンジとは何ですか?
ダイナミック レンジは、おそらく音楽を使って説明するのが最も簡単です。レコードやカセット テープと比べて、音楽CDが登場したときの利点の 1 つは、そのダイナミックレンジの広さでした。基本的に、これはメディアが表現できる最も小さい音と最も大きい音の差です。
オーディオの音量は対数的な性質を持っているため、ダイナミックレンジはデシベル (dB) で表されます。
カセット テープのダイナミックレンジは50~60dB、33-⅓回転のLPレコードは55~70dB のダイナミックレンジですが、CDの音楽は96dBにも達し、人間の耳へのノイズシェーピングを使用するとさらに高くなります。
ダイナミックレンジ比較オーディオ
ダイナミックレンジは、歪みのない最大振幅の信号と最小振幅の信号との比率です。これをシステム間で繰り返し計測するには、1kHzの純粋な正弦波や1.228VRMSのような固定振幅の信号を、既知の基準として注入します。
SIRIUS LV の場合ダイナミック レンジの仕様は、10kS/sのサンプルレートにおいてユーザーが選択可能な各レンジに対して次のように示されます。
- 最も感度の高い±100mVのレンジでは、ダイナミックレンジは130dBです。
- 最も感度の低い±200Vのレンジでは、ダイナミックレンジは136dBです。
では、DEWESoft はどのようにしてこのような高いダイナミックレンジを実現しているのでしょうか?
一般的なDAQシステムのダイナミックレンジは100dB未満です。
最初の説明は、24ビットΔΣADCテクノロジの使用です。前述の音楽CDは1980年代の規格で、CDには16ビットの音楽しか保存できません。分解能を1ビット増やすごとに、表現できる値の数が2倍になることを考えると、24ビットADCの方が16ビットADCよりも量子化がはるかに優れていることは明らかです。
しかし、これは始まりに過ぎません。同様の24ビットADCを搭載した他のDAQシステムでさえ、この仕様を達成していないからです。DewesoftのDualCoreADC®テクノロジは、チャネルごとに2つの独立した24ビットADCを使用し、リアルタイムで自動的に切り替えて、シームレスな単一チャネルを作成します。これらの2つのADCは、常に入力信号の高ゲインと低ゲインを計測します。その結果センサの測定範囲がフルに確保され、信号がクリップされるのを防ぎます。
【動画】DualCoreADCの概要
DualCoreADC®テクノロジにより、SIRIUSは130dB以上のS/N比と160dB以上のダイナミックレンジを実現しています。これは一般的な24ビットシステムより20倍優れており、ノイズは20倍少なくなります。
信号対雑音比 (SNR) とは何ですか?
その名の通り、これは有用な信号コンテンツと、信号チェーンに侵入したバックグラウンドや不要な信号コンテンツ(ノイズ)の比率です。信号対雑音比(しばしばS/NまたはSNRと略される)はデシベル(dB)で表されます。
この仕様は、上記のダイナミックレンジと密接に関連しています。Dewesoft DualCoreADCテクノロジは、2つの異なるゲインアパーチャに設定された2つの独立した24ビットADCを使用し、それらのストリームを可能な限りノイズフロアが低く、可能な限りダイナミックレンジとS/N比が高い単一のストリームに結合することにより、SIRIUS計測システムのS/N比を大幅に向上させます。
ノイズフロアとは何ですか?
上述の信号対雑音比と密接に関連する「ノイズフロア」は、計測システム内に存在する「ノイズ」と呼ばれるすべての不要な信号の合計です。サウンドアンプでは、静かな音楽の背後に文字通りノイズが聞こえるため、これを想像するのは簡単です。しかし、ノイズはすべてのシステム、特に電子信号をより高いレベルに増幅するシステムに存在します。
スペクトルアナライザを使用してシステムのノイズフロアを計測することができます。
平均振幅がノイズフロアより小さい信号を正確に計測することはできないので、このパラメータについて知り、理解することが重要です。
信号対雑音比と同様に、ノイズフロアはデシベル (dB) で表されます。
IOLITE 8xTH シグナルコンディショナ
例として、DEWESoftのIOLITE 8xTHを見てみましょう。これは、絶縁された 8 チャンネルの熱電対シグナルコンディショナです。ノイズフロアは、2つのサンプルレートと2つのゲインで指定されます。
IOLITE 8xTH | @ ±1 V レンジ | @ ±10 V レンジ |
---|---|---|
標準ノイズフロア @10/100 s/sec | 114 dB / 105 dB | 109 dB / 100 dB |
つまり114dBの最良の仕様は、10S/sで±1Vのレンジでサンプリングする場合です。
入力インピーダンスとは何ですか?
DAQシステムのユーザは、高インピーダンス入力の方が低インピーダンス入力よりも優れているとよく言います。しかし、なぜでしょうか。基本的に、入力のインピーダンスが高いほど、接続された信号源から引き出される電流は少なくなります。信号アンプが通過させる電流が少ないほど、計測の品質に与える影響が少なくなるためです。その結果、ほぼすべてのDAQシステム,電圧計,オシロスコープには、高い入力インピーダンスの入力があります。
一般的なタイヤ空気圧ゲージ
車のタイヤの空気圧を計測しているとしましょう。圧力計を接続すると、計測するためにタイヤから少量の空気が抜けます。
この例えで言えば、理想的なタイヤ空気圧計は、タイヤ内の空気にほとんど影響を与えないという意味で「高インピーダンス」です。しかし「低インピーダンス」の圧力計では大量の空気が抜けてしまい、タイヤの空気圧が著しく抜けて性能が低下します。また、誤った読み取り値になる可能性もあります。高入力インピーダンスは信号源に「負荷」をかけず、誤った読み取り値をもたらすことがないため好まれます。
しかし、「入力インピーダンス」とは正確には何でしょうか?
基本的にインピーダンスとは、計測システムへの電流の流れに対する回路の抵抗 (インピーダンス) の合計です。インピーダンスは、抵抗 (静的) とリアクタンス (動的) という 2 つの独立したスカラー要素で構成されるベクトル量です。ベクトルは2次元の量を指します。この場合、抵抗 (R) とリアクタンス (X) という2つの1 次元 (スカラー) 要素で構成されます。
インピーダンスは記号Zで表され、単位はオーム (Ω) です。
インピーダンスの逆数 (1/Z) はアドミタンスと呼ばれ、入力が信号源から引き出す電流の量を表します。
理想的なDAQ入力は、無限のインピーダンスを持ちます。実際には、DAQシステムや電圧計などの入力インピーダンスは通常1MΩのレンジです。DEWESoftシグナルコンディショナは通常この入力Z 提供しますが、モジュール内の一部のモデルまたはレンジでは最大10MΩの入力Zを提供します。たとえば、SIRIUS LV(低電圧)モジュールは±200Vレンジで1MΩの入力Zを提供しますが、その他のレンジでは10MΩの入力Zを提供します。
また、SIRIUS HV (高電圧) モジュールは、10 MΩ || 2 pF の入力 Z を提供します。ここで、|| 記号は「並列」を意味します。
オシロスコープやDAQシステムのような高入力インピーダンス計測システムでは入力Zを、通常は非常に小さい値である静電容量と並列の抵抗として指定することがよくあります。
2 pF = 2ピコファラッド、つまりの20億分の1ファラッドです。
最大コモンモード電圧
まず、コモンモード電圧とは何でしょうか?コモンモード電圧とは、計測チェーンに侵入する不要な信号のことで、通常はセンサと計測システムを接続するケーブルから侵入します。これらの電圧は、私たちが計測しようとしている実際の信号を歪めます。
振幅に応じて、それらは「小さな迷惑」から実際の信号を完全に不明瞭にして計測を台無しにするまでさまざまです。それらは正と負の両方の入力端子に入るため、「コモンモード」と呼ばれます。
差動アンプ
コモンモード信号を除去する最も基本的な方法は、差動アンプを使用することです。このアンプには、正と負の入力の2つの入力があります。アンプは、2つの入力間の差だけを計測します。
両方のラインに共通する信号は差動アンプによって拒否され、下の図に示すように信号のみが通過します。
差動アンプはCMV入力範囲内でコモンモード電圧を効果的に除去します。
これは素晴らしい機能ですが、アンプが除去できるコモンモード電圧(CMV)には限界があります。信号ライン上のCMVが差動アンプの最大CMV入力範囲を超えると、「クリップ 」が発生します。その結果、下図のように出力信号が歪んで使えなくなります:
差動アンプはCMV入力範囲を超えると歪みが生じたり「クリップ」したりします。
DEWESoftのシステム入力はすべて差動であり、そのほとんどは絶縁されているため、最大コモンモード仕様は実際には両方のセーフガードの総和です。最大コモンモード電圧がどのように指定されるか、1 つの例を見てみましょう。
SIRIUS STGは、あらゆる種類のひずみゲージに対応する多機能モジュールですが、電圧や抵抗を直接計測することもでき、DSIシリーズのアダプタを使用することで、チャージやIEPE加速度計、熱電対、LVDTなど、様々な入力タイプを扱うこともできます。差動バージョンと差動+絶縁バージョンの両方が用意されています。
SIRIUS STG 最大コモンモード電圧仕様
- 絶縁バージョン: ±500V
- 差動バージョン: @50V レンジ: ±60V; @その他のレンジ:±12 V
差動バージョンの最大CMVがアプリケーションに適していれば、このモデルで問題ありません。しかし、コモンモード電圧が仕様よりも高くなると予想される場合は、±500Vのコモンモード電圧保護を提供する絶縁バージョンを使用する必要があります。
絶縁
差動入力アンプの最大コモンモード電圧が十分に高くない場合は、CMV,電気ノイズ,およびグランドループに対する追加の保護レイヤ、つまり絶縁が必要です。
絶縁アンプの入力は、コモンモード電圧より高く「浮遊」します。絶縁アンプは、1000ボルト以上のブレークダウン電圧を持つ絶縁バリアを使用して設計されています。これにより、非常に高いCMVノイズを除去し、グラウンドループを排除できます。
絶縁差動アンプは、非常に高いCMVも除去します。
絶縁アンプは、 小さなトランスを使用して入力を出力から絶縁(「フロート」)するか、小さなオプトカプラを使用するか、または容量カップリングによってこの絶縁バリアを作成します。最後の2つの方法は通常、最高の帯域幅パフォーマンスを提供します。
絶縁は通常、電圧で規定されます。例えばすべてのDEWESoft SIRIUSアンプは、1000V絶縁で定格されており、HV (高電圧) モジュールはそのレベルで追加のCAT II 認証を取得しています。とりわけCAT定格は、システムが特定のレベルで過渡現象にどれだけ耐えられるかを示します。
絶縁の実行方法,絶縁の種類,CAT定格の詳細については、このシリーズの「意外にむずかしい電圧計測」の記事を参照してください。
まとめ
この記事が、信号アンプとその背後にある主要な技術や用語についての理解を深めるのに役立つことを願っています。信号アンプの仕組みとその仕様をより適切に解釈する方法を理解することは、DAQ システムを選択する際に適切な選択を行うのに役立つことは間違いありません。
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